宝島のできごと

旅する深度

 

Tout vient à point à qui sait attendre.
(トゥー ヴィアン ア ポワン ア キ セ アトンドル)

ー待つことを知る人には、すべてがちょうどよい時にやってくる


フランスのことわざです。(ちょっぴりインテリぶっちゃった(*^^))

「待つ」ことは得意なほうですか?
私は大の苦手。
待っている時間があるなら動きたーーーーーい!!!


が、しかし。ここ最近思うのです。
待つ。一見、受動的なこの行為。
ことわざ通りでもあり、実は深い意味をともなった「行動」だと。


待つ = 時間をかけること。時間を積み重ねること。


そこに潜む、時間をかけたことでしか生まれない豊かさ、強さ、確かさ。

このことわざが意味するところからは少しズレますが、
宝島への旅は、待つこと、時間をかけることそのものでもあります。
今回はそんな話題です。


初めて宝島へ行くために飛行機やフェリーのチケットを予約したときのこと。
東京 ~ 宝島へ行くルートは2通りあります。
鹿児島市からフェリー(宝島まで約13時間)
奄美大島からフェリー(宝島まで約3時間)

フェリーに乗る時間が少ない奄美大島ルートを選んだのですが、
思いがけないことに気づきました。

出港時間が夜中の2時。・・・遅っっ!!
この時間帯にちょうどよい飛行機はないので、
出港までかなりの時間を待つことになります。
そして、宝島に着くのは翌日の早朝5時。
鹿児島ルートにしても到着は翌日のお昼頃。

ガーーーン!1日で着かないの!?


訪れる人は少なく、観光地化されていない(そこも魅力のひとつ♡)トカラ列島。
そこに飛行機とフェリーの乗り継ぎの利便性は存在しませんでした。

そもそもフェリーは人だけでなく、トカラ列島各島へ物資を運搬するのも重要な役割。
鹿児島 ~ トカラ列島の有人島7島 ~ 奄美大島の間を
荷物の積み降ろしをしながら往復しています。


こちとら効率優先の東京時間に慣れきった生活だったので、
これに気づいたときは愕然。(アゴ外れた)

「うそでしょ。ニューヨークに行けるじゃない・・・」

日本国内だし、出発したその日に着くと当たり前のように思っていましたから・・・
テンションだだ下がりですよ。
「え〜、行くの面倒くさい〜」と思ったことを正直に告白します。


そんな私に、友人が起死回生の一言を放ちます。
「すぐに着いてしまう便利な旅しかできない現代において、
 なかなか着かない旅は贅沢な旅だよ」

友人と呼ぶにはおこがましい人生の大先輩であり、某大手芸能プロダクションの
取締役をされていた方なのですが、
視点の転換と豊かな感性が生み出したこの言葉に激しくヒザを打ち、
テンションはまたたく間に再構築されました。


出発当日、家を出たのは午前8時すぎ。
空路あり、陸路あり、海路ありの道のりは
友人の言葉通り、時間を贅沢に使う旅でした。

午後1時に奄美大島へ到着。
フェリーが出るまで13時間もある。わーい!(半分ヤケ)

そしてこの13時間に思いもかけないことが。

とりあえず乗ったタクシーの運転手さんと仲よくなり、ランチをごちそうに。
(奄美名物・鶏飯 ♪)
街中やビーチ、海を一望できる展望台にも連れて行っていただきました。

この運転手さんとは以後、宝島に行くたびにお世話になり、今も素敵なお友達です。
目的地にまっしぐら、という旅では生まれなかったこと。
気持ちも軽やか、旅する楽しさで弾みます。


道程のクライマックスは最後のフェリー航路。
深夜2時。鳴り響く汽笛の音とともに離岸して、大きく旋回する船体。
真っ暗な港をゆっくりと優雅に出ていきます。
その先は360° 海しかない世界。

そのなかをひたすら進んで行くのは、非日常へ深く埋没していく航海でした。

7月中旬だったこともあり、日の出は早く、明け方4時を回ったころから
空は太陽を迎える準備を始めます。
鈍色の空と海が刻一刻と明度を増していくさま。
いくつものさざ波が海の浅い寝息のように無数に揺れる海面は、
次第にグレーからブルーへと変わっていき、海が目覚めていく。

いつしか水平線にはオレンジの光が揺らめき始めています。
ゆっくりと顔を出す太陽。その瞬間、水面にこぼれ落ちるゴールド・リフレクション。

 

フェリーと島からの日の出

 

海でしか味わうことのできない光景と過ごす時間。
そして、ほどなくして眼前に現れた宝島の姿。

それを見たとき、一気に高まるわくわく感とともに、時間を経てようやく目にした
初めて見る宝島に不思議な愛着を感じました。

「ついに来た!」

 

外洋から臨む宝島

 

時間がかかることで紡ぎ出される「旅する実感」に満ちた道程。
こんな旅があってもいい、本来旅をするってこういうことかも・・・
(行く前のダダ下がりモード
はいずこへ。あっはは~ ♪ )
タラップを降りる足取りは軽く、疲れはみじんもなかったように記憶しています。


昨年、名古屋から旅行で来た男性に「なぜ宝島に?」と聞くと、
「はじめは他の離島へ行くつもりだったけど、トカラ列島の行きにくさに魅かれて
 逆に面白そう!って思って」
と爽やかな笑顔でおっしゃっていました。


時間がかかることで旅の深度が増して、ふくらみを持っていく・・・
「目的地までの移動」ではなくなって、非日常のなかへ身を投じる
「旅する」ことそのものになる。

この行きにくさを面白い!と思う方はぜひ宝島へ。
(ホントに遠いよ)(´∀`)

旅の海へ深く深く潜って、非日常の海域に降りていくのは楽しいと思いますよ ♪




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